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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)847号 判決 1970年6月29日

控訴人

早川志満

外一名

代理人

松島政義

被控訴人

対崎取子

代理人

的場武治

外一名

主文

一、本件控訴をいずれも棄却する。

二、控訴人(反訴被告)早川澄子の当審における新たな請求を棄却する。

三、反訴原告(被控訴人)の反訴を却下する。

四、当審における訴訟費用を五分し、その間を控訴人早川志満および控訴人(反訴被告)早川澄子の各負担とし、その余を被控訴人(反訴原告)の負担とする。

事実《省略》

理由

一、被控訴人が志満の子である訴外早川清こと大木清に対し、昭和二九年六月一八日以前に数回にわたつて合計二一万四、三〇〇円を貸渡したが、同日右貸金合計額を元金とし、これにつき利息年一割、弁済期同年一二月三一日と定め、これに右清の実妹たる澄子の所有にかかりその旨の登記の存する本件土地につき、抵当権が設定され、同年六月二九日受付をもつてその旨の登記を了したこと、しかるに右清が前記約定期限を過ぎても債務を弁済しないので、被控訴人が昭和三〇年四月一日右抵当権にもとづき競売の申立てをなしたうえ自らこれを競落し、同年七月八日の競落許可決定により同年一〇月一日受付をもつてその旨の所有者移転登記を経由したこと、右土地の上に本件建物が存在し、志満がこれに居住し右土地を占有していることは、いずれも当事者間に争いがない。

二、まず澄子が本件土地につきその主張のごとき法定地上権を取得しているか否かについて判断する。

<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、本件土地の上に建在する本件建物はもと訴外有限責任交住宅組合の所有に属しており、同組合より訴外早川竜之助(控訴人志満の夫、控訴人澄子および訴外大木清の父)が賃借し家族とともに居住していたが、右組合が都合により昭和一六年七月一日右建物を訴外協会(当時の名称は財団法人東京府住宅貸付金整理協会であつたが、昭和一九年二月二七日その名称を前記訴外協会と変更した)に贈与し、同年同月一一日その旨の所有権取得登記を経由した。そして、右所有権の移転に伴ない訴外協会が前記組合に代わつて本件建物の賃貸人たる地位を取得したが、訴外協会は昭和二五年一二月一七日解散し、その清算人に小野新次郎が就任し、他方、賃借人たる前記早川竜之助が同二六年五月三日死亡したため、賃借人を同人の長男早川清(後に養子となつて大木と改氏)と定め、同人の名義で家賃を支払つていた。訴外協会が前記のとおり解散したため、清算人において早急にその所有財産を整理処分する必要に迫られ、賃貸家屋を賃借人もしくは居住者に買取りを求めることになり、その交渉をはじめたが、当時亡竜之助の長男である訴外清はすでに昭和二四、五年頃から本件建物を出て他に居住し、右建物には控訴人ら母娘が居住していたほか、清は事業に失敗して多額の債務を負担し、控訴人ら特に澄子に種々金銭上の迷惑を及ぼしていたりなどした関係もあつて、控訴人両名および清らが協議の結果、澄子が本件建物を買取ることとなり、昭和二六年一月三〇日澄子は訴外協会の小野清算人との間に代金一七万円、内金三万円は契約と同時に支払い、残金は同年一二月二五日、翌二七年一月末日、同年二月末日に各二万円、同年三月より同二八年六月までに毎月末日かぎり金五、〇〇〇円ずつ分割して支払う、建物所有権移転登記は代金完済後にする、建物ならびにその敷地にかかる一切の費用は昭和二六年一二月一日以降澄子の負担とするなどの約定で売買契約を締結した。その後、澄子は約定の売買代金の分割支払いを続け、同じく約旨にしたがつて本件建物に賦課される固定資産税その他の公租公課を納付しており、また昭和三五年四月一四日仮登記仮処分命令による所有権移転の仮登記を経由した。<証拠判断省略>

一般に売主の所有に属する特定物に関する売買契約においては、反対の特約その他の特段の事情がないかぎり、右契約の成立と同時に目的物の所有権が買主に移転する効果を生ずるものと解すべきところ、前記売買契約においては反対の特約その他の特段の事情の存在することが認められないばかりでなく、かえつて右契約に際し本件建物およびその敷地にかかる一切の費用は昭和二六年一二月一日以降澄子の負担とすべきものと定められ、その約旨にしたがつて澄子がその後の公租公課を負担してきたことは前示のとおりであり、また本件弁論の全趣旨によると、澄子ないし清らは右契約締結以後本件建物に対する賃料を支払つていないことが認められる。してみれば、前記売買契約の成立と同時に澄子は本件建物の所有権を取得したものというべきである。<証拠判断省略>

ところで、特定の土地およびその地上建物が同一の所有権に属する場合に、その土地だけが抵当権の目的とされ抵当権が実行されたときは、地上建物の所有者が競落人に対していわゆる法定地上権を取得することは民法第三八八条の定めるところである。そして、右の場合に建物が新築されその所有権が原始取得されているときには、登記がなくてもその所有権取得を第三者に対抗しうるから、その建物の所有者が法定地上権を取得するのに、右抵当権設定当時地上建物につき保存登記のなされていることは必ずしも必要としないが、抵当権設定者が新築以外の原因によつて建物の所有権を取得し、しかもすでに右建物につき前主その他の者の所有名義の登記がなされているときにあつては、抵当権設定者が土地に抵当権を設定した当時に地上建物を所有したことを、抵当権者および競落人に対抗するためには、自己所有名義の登記を経由していることを必要とし、右対抗要件を具備していないかぎり該土地につき法定地上権を取得し得ないと解するのが相当である。してみると、澄子は本件土地に抵当権を設定した当時、その地上に建在する本件建物につき同人所有名義の登記を経由していなかつたのであるから、同人は本件土地につき主張のごとき法定地上権を取得したものとは認められない。<以下省略>(多田貞治 上野正秋 岡垣学)

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